オレイニコフ『ゴキブリ』

 

ゴキブリ

 

ゴキブリがコップの中に落っこちました。

ドストエフスキー

 

ゴキブリがコップの中に入ってる。

赤い肢をしゃぶってる。

落っこちたんだ。コップの中だ。

いまや処刑を待っている。

 

悲嘆に暮れた眼(まなこ)して

ソファを一瞥してみると

ナイフと斧をたずさえた

解剖人らが座ってる。

 

机の脇では助手がガチャガチャ音たてて

器具をごしごし磨きつつ

『勇敢なトロイカ』を

小声でぶつぶつ歌ってる。

 

猿には考え事は難しい

頭は空っぽのまま唱えてる。

ゴキブリがコップの中に入ってる

赤い肢をしゃぶってる。

 

ゴキブリがガラスの壁に寄りかかった

見ろ、辛うじて息をしている…

彼は死を怖れていなかっただろうに

もし魂があると知ってたら。

 

けれど科学は証明している

魂は存在しないのだと

魂を作っているものは

肝臓と骨と脂肪なのだと。

 

存在するのは連結と

それから化合だけなのだ。

 

科学の出した結論に

逆らうことなどできやしない。

ゴキブリは手を握り合わせて

苦しむ心の準備をした。

 

そら処刑人が近づいてくる

彼の胸を触診し

肋骨の下に探し出す

刺し貫くのによい場所を。

 

ゴキブリをまるで豚みたいに

刺し貫いて、横ざまに倒す。

馬みたいな顔した奴が

大きな声でいなないて、歯をむき出しにする。

 

そしたら一斉に

解剖人たちが彼の元へと急行する。

ある者はピンセットで、ある者は素手で

ゴキブリを解剖する。

 

104個の器具が

患者をばらばらに引きちぎる。

その損壊と痛みのせいで

ゴキブリは死んでゆく。

 

彼は突如ゾクリとする

まぶたの震えが止んでいる…

このとき悪党どもはふと我に返り

後ずさりした。

 

過去にあったことは皆、痛みと災い。

それ以外には何もない。

身体に溜まっていた水が

彼から流れ出してくる。

 

誰にも見向きもされていない

大きな帽子の破れ目からは、一匹の

息子の舌足らずな声が響く。「パパ、パパ!」

哀れな息子よ!

 

だが父には彼の声は聞こえない

なぜなら父は息をしていないから。

 

その上では髪の毛を振り乱した

醜く、毛むくじゃらの

恐れを知らない解剖人が

ピンセットとノコギリを手に立っている。

 

やい、ズボンをはいたろくでなしめ

死んだゴキブリは

科学の受難者で

ただのゴキブリではないのだぞ。

 

見張り番が荒っぽい手で

窓から彼をぶん投げる

頭を逆さに庭の中へ

われらのヒーローは落っこちた。

 

ちょうど玄関近くの

踏みならされた小道で

彼は肢を持ち上げたまま

悲しい結末を迎えるだろう。

 

彼の干乾びた骨に

小雨が降り注ぐだろう

その空色の目玉を

雌鶏がついばむだろう。

 

(1934年)